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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1874号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1 原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。

2 被控訴人の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文に同じ。

第二  事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、一審相原告乙山春夫(以下「乙山」という。)だけに関する部分を除いて、これを引用する(なお、原判決六枚目裏末行の「原告甲野」は、「乙山」の誤記であるから、同六枚目裏末行から同七枚目表二行目までは引用しない。)。ただし、原判決七枚目裏四行目の「一〇月三〇日」を「一〇月三日」とそれぞれ改める。

第三  証拠《略》

第四  争点に対する判断

一  争点1及び2について

当事者間に争いのない事実及び《証拠略》によると、次の事実が認められる。

1 被控訴人は、昭和六三年七月一五日から平成三年六月二四日までの間に前後一四回にわたって控訴人から金員を借入、借り換え、借増しを繰り返してきたが、平成二年三月一九日、同年六月二九日、同三年二月一二日の三回の借り入れ時に作成された借用証書の裏面には、第7条として早期完済特約が印刷されているが、それ以外の借用証書には右特約の記載はなかった。

2 控訴人側の担当者であった三原及びその後任の稲垣は、後記3記載を除き、右各貸付の前後を通じて被控訴人に右特約のあることを説明しなかったし、平成二年三月一九日付借増し及び同年六月二九日付借入金の借り換え時には、右特約に基づく利息の支払を請求しなかったので被控訴人は右特約のあることを知らず、また被控訴人も右借用証書を詳しく読まなかったため、右早期完済特約の記載に気づかなかった。

3 被控訴人は、平成三年七月の本件甲野不動産を売却した日に稲垣から早期完済特約に基づく利息金の支払義務のあることを説明されたが理解できなかった。

被控訴人は、平成三年四月二〇日の借入れた一〇〇万円の債務につき同年六月二四日に借入金を二二〇万円とする更改契約を締結したが、同年九月一一日に右不動産の売買代金から借入金一二〇〇万円及び二二〇万円の元利金等及び右特約に基づく未経過期間の利息として五五〇万円(なお、本来は八一二万六八六〇円であるが、控訴人においてこれを減額した。)を控除され、予想を下回る三三〇万円を手渡された。

4 被控訴人は、控訴人に対し、一二〇〇万円の借入金について平成三年八月二五日までに約定利息合計九四万二七七七円を支払い、同年九月一一日に同日までの約定利息七万四九五八円を支払っているから、右五五〇万円を加えた利息六五一万七七三五円は、元金一二〇〇万円、期間二一二日について、年利九三・五一三一パーセントとなる。

被控訴人の場合は、右特約に基づく利息金を減額されているが、借入期間二一二日間について、仮に、約定通りの利息九一四万四五九五円全額を支払うとすると、実質年利は一三一・二〇一九パーセントとなる。

以上の認定事実によると、一応本件早期完済特約の合意はあったものといえるが、例文に過ぎず、被控訴人は右特約のあることさえ知らなかったし、控訴人の担当者は被控訴人が右特約に気づいていないことを知りながら、あえて被控訴人に右特約のあることを教えなかったこと、本件特約が適用されると、被控訴人が期限の利益を放棄して返済期限前に元金残額を返還しようとする場合、借入日から返還までの期間が短ければ短いほど支払うべき未経過利息は多額となり、本件の場合でも約定通り支払った場合はもちろんのこと、減額されて支払っても右に見たとおり、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律所定の最高限度額を超える過大な利率となることを総合勘案すると、本件早期完済特約は、信義誠実の原則に照らして不当な約款であり、公序良俗に反して無効であって、控訴人が右特約に基づき請求できるとして五五〇万円を取得したのは法律上の原因なくして受けた利益となり、被控訴人に返還すべきものであると解すべきである。

そして右の事実からすると、控訴人は右受益につき悪意であったといえる。

二  そうすると、控訴人は被控訴人に対し、民法七〇四条に基づいて右五五〇万円及びこれを受領した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による利息を返還すべきである。

三  以上の次第で、被控訴人の本件請求を認容した原判決は結論において相当であるから、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 熊谷絢子 裁判官 神吉正則)

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